北海道・白老(しらおい)町にある赤い屋根がかわいい菓子工房「​まいこのマドレーヌ」。

店名にもなっているマドレーヌをはじめ、アップルパイやエッグタルトなどの人気商品がたくさん並ぶ店内は、木を基調としたデザインのほっこりする空間です。

「旅するイストリア vol.1」は、そんな心温まる工房を運営する「株式会社しらおい菓子工房まいこ」の代表取締役・佐藤朋子(さとうともこ)さんのお話をお届けします。

店名の由来やお菓子作りへ込める想い、社員食堂のことなど、全てのストーリーに佐藤さんの社長として、そして、母としての愛情がたっぷりと詰まっています。

「娘と一緒に働けたら…」母の愛からはじまった店

印象的でどこか優しさを感じる「まいこのマドレーヌ」という店名。そこには佐藤さんの母としての願いが込められていました。

「まいこのマドレーヌ」は1985年にスタートした小さな菓子工房で、社名や商品名の「まいこ」は、自閉症の長女の名前です。将来、まいちゃんが施設ではなく自宅で家族と一緒に暮らしながら、できるなら仕事もさせてあげたい、そんな想いで開いたお店です。

菓子工房にしたのは、まいちゃんが幼いころから食べることにすごく興味を示したのと、私もお菓子作りが好きでよく作っていたから。これならまいちゃんも楽しんで働いてくれるんじゃないかと思ったんです。

店名の「マドレーヌ」は私たち親子がはじめて一緒に作った、当工房の原点のお菓子です。そんな思い出のお菓子とまいちゃんの名前「まいこ」を合わせて、「まいこのマドレーヌ」と名付けました。

創業時から、『お店は小さいですが、愛情はたっぷり』そんな商品づくり・お店づくりを心がけ、気が付けば35年以上になりました。まいちゃんは工房で、長男が2号店の「MAIKO’S BAKE」を、三男が物産展などのことを頑張ってくれていて、足を運んでくださるみなさまと優しい従業員たちに囲まれ、毎日賑やかにやっています。

私たちは母親が子供の口に入るものを気に掛けるように、誰もが安心して美味しく食べられるよう、できる限り無添加と北海道産素材にこだわったお菓子作りを心掛けています。

大人気!まいこさんが作る特別仕様のアップルパイ

北海道産りんごをたっぷりのバターでソテーして作る「アップルパイ」。「まいこのマドレーヌ」の人気商品のひとつですが、オリジナル商品以上に人気なのが、まいこさんが一日に二個だけ作る夢のようなアップルパイなんだとか。

まいちゃんが作るアップルパイは、とにかくりんごがぎっしり詰まっています。パイ生地とりんごの間に隙間ができないほどたくさん詰めているので、きっと通常の倍くらいはあるんじゃないでしょうか。

毎日、自分用とお客さま用に二個焼いているんですが、これが本当に人気で。まいちゃんが楽しんで作っているものなので、値段はオリジナル商品より少し安い1500円。通常よりりんごがとっても多いので本当は逆なんですが…(笑)

最近は毎日のように注文が入っていて、先に予約をいただくこともあるんです。まいちゃんが作ったお菓子を喜んでくださる方がいるということがすごく嬉しいですね。

まいちゃんは他にも、スイートポテトの計量やエッグタルトのシートの敷き詰めなんかがすごく上手で、工場から助っ人を頼まれることも多いんです。

一緒に働く中で、この子がなにに興味があって、どんなことが楽しくて上手なのかがわかってきました。この工房でこうして一緒に働きながら成長を見守ることができて、本当に良かったなと思います。

買えたらラッキー!一本しかない手作り無添加食パン

実は「まいこのマドレーヌ」で一本だけ販売されているという佐藤さん手作りの角型食パン(北海道では角食(かくしょく)と呼ぶそう)。この食パンにも母の愛情がぎゅっと込められていました。

北海道産の小麦「ヌーベルバーグ」と、北海道産バターを贅沢に使って焼いた角食で、ふんわりというよりはハードな食感をしていて、これがなかなか美味しいんですよ。

元はまいちゃんが朝に食べられるようにと焼き始めました。以前は市販のものを買っていましたが、市販の食品はどれだけ気を付けても添加物が入っていることが多くて。工房のお菓子作りと同じように、家族の毎日の食事にも美味しくて安心なものを用意してあげたいと思い、自分で作ってみるようになりました。

ある時、お客様にお出ししたら「美味しいから販売して」と言っていただいて。ホームベーカリーなのでそれほど多くは作れないため、工房で一本だけ販売しています。添加物が一切入っていない100%純正の角食です。よろしければぜひ食べてみてください。

従業員の健康をねがう「まかない食堂」

家族もお客さまも、誰に対しても惜しみなく愛を注ぐ佐藤さん。そんな佐藤さんが昨年工房内でスタートさせたのが「まかない食堂」です。まかないという名の通り、従業員の方が食べられる社員食堂のようですが、なんと一般の方も食べられるのだとか。

昨年に工場を新設したのですが、それに伴い、もともと店舗で製造を行なっていたスペースを改装し「まかない食堂」を始めました。

従業員のみんなにバランスの取れた食事をしてほしい、野菜を食べてほしいという想いで毎朝手作りしています。北海道産「ゆめぴりか」とおかず、副菜、岡山県・備前の「紅糀みそ」を使ったお味噌汁が付いた定食を提供しています。

従業員は10名ですが、毎日20食を目指して作っていて、10食ほどだけですが来ていただいたみなさまも食べていただけます。

この食堂を作ってみて感じたのは、こうして毎日従業員みんなと顔を見て話ができるというのは、とても良いことですね。

うちは作業場所が三ヶ所あるので、以前は別の場所にいる人とは話せない日もあったんですが、今はみんながお昼になったらここに食べに来てくれて、なんでも話してくれるようになりました。会話が増えて、さらに親しくなれた気がします。

聞くところによると、毎日お昼を楽しみにしてくれている人も多いみたいで。みんな忙しい中一生懸命に働いてくれているので、息抜きできる場所を作ってあげられて良かったなと思います。毎日「残さず食べなさい」「野菜をしっかり食べなさい」なんてうるさく言う人がここにいますけどね(笑)

本店以上の品揃え!「MAIKO’S BAKE」

「まいこのマドレーヌ」から車で10分ほど北へ進んだJR白老駅すぐのところにある「MAIKO’S BAKE」。佐藤さんの長男・佐藤慶自さんが店長を務める2号店です。

「MAIKO’S BAKE」のことは長男が頑張ってくれているので、私はあまり口出しせず任せています。「まいこのマドレーヌ」より豊富な品揃えで、人気のエッグタルトをはじめ、アップルパイ、キッシュ、季節のフルーツタルト、クッキーシュー、スコップケーキ、純生オムレットなどを販売しています。

今ではすっかり息子たちの方がお菓子作りに詳しくなり、素材選びも厳しくこだわりを持ってやっています。「MAIKO’S BAKE」も「まいこのマドレーヌ」と同じように、北海道産素材を使用したお菓子をお作りしています。

また、全国のソフトクリームランキングで2位となった「岩瀬牧場」さんのソフトクリームもお召し上がりいただけますので、白老にいらっしゃった際には、ぜひ寄ってみてください。

あとがき

取材にお応えいただきながら、「毎日色々なドラマが目の前で繰り広げられるから目を離せないんです」とまいこさんや従業員の方々を優しい目でずっと見守っていらっしゃった佐藤さん。その姿は強くたくましく、優しくて懐の深いまさに“肝っ玉母ちゃん”そのものでした。

人もお菓子も優しくて心が満たされる素敵な菓子工房「まいこのマドレーヌ」の、美味しくて安心して食べられるスイーツをみなさまもぜひ味わってみてください。