2022年を代表するスイーツは何だったでしょう。

この1年は、2021年末に流行ったイタリア菓子のマリトッツォの次に何が来るのかとワクワクしたと思います。

これまでスイーツ業界が活性化してきたのは、次から次へと目新しい商品によりブームを呼び、客を引き寄せることができたためです。

例えば、第二次世界大戦後には、チーズケーキやティラミスが大ブームを起こしました。これらのブームを支えたのは、同じ時代に創刊された女性情報雑誌『アンアン(an・an)』『ノンノ(non・no)』『Hanako』によります。

キャッチ―な言葉により、洋菓子は単なる食べ物ではなく、情報により消費者が商品購買する「スイーツ」、すなわち、「ファッションスイーツ」へと変わっていったのでした。

ティラミスをブームに消費者は常に「行列のできるスイーツ」を求めるようになりました。その結果、まだ日本に紹介されていなかったヨーロッパ各国の菓子やアジアから流入してきた菓子がブームを起こしました。

ところが、ある時期から、海外のスイーツで爆発的で熱狂的なブームを生むということはなくなっている気がします。
代わりに、洋菓子でも和菓子でもないスイーツ、それも既存の菓子に何か新しいものを加えることで盛り上がっています。いわゆるリバイタライゼーション(再活性化)の菓子です。

情報技術の発展にともない、TwitterやFacebook、InstagramといったSNSが登場してからは、それをツールに芸能人やモデル、ファッションリーダーやセレブといった注目を浴びているカリスマ的存在がスイーツ情報を発信するようになりました。

今日では、一般の消費者がインスタグラムなどを通してインフルエンサーになっています。その結果、洋菓子は味を楽しむことから、イメージや情報を消費するスイーツへと変化してきたのです。

しかし、消費者のなかには、自己顕示欲や承認欲求を満たすためにスイーツを利用するだけの人もいます。
スイーツへの興味は「インスタ映え」だけであり、スイーツという食べものの本来の価値には興味なく、味わうこともせずスイーツを廃棄する人がいるのです。

スイーツに興味がない人が発信する情報は、本当のものとは異なるイメージや情報を発信している可能性が高いのです。にもかかわらず、そうした消費者に応えて、見た目だけにこだわり、製造する企業もあらわれました。

確かに菓子企業を経営するにあたり、ブームにのることは必要です。これまでスイーツ業界が活性化してきたのは、次から次へと目新しい商品によりブームを呼び、客を引き寄せることができたからです。しかし、根無し草ではいけません。

根無し草は、いうなれば、菓子職人・菓子経営者としての理念を持っていないことを示します。
理念がないことは、自身の企業に悪影響を与えるだけでなく、業界全体として、菓子を生み出す職人が育つ基盤を危うくし、菓子業界の衰退につながることを意味するからです。

しかし、各個人が持つ不安定で不確実な「理念」をどこに置くべきでしょうか。それは、「地域」に置くべきだと考えます。長崎での「カステラ」からも実感しました。

情報技術は今後も進歩するでしょうし、ITを駆使した情報発信は不可欠でしょう。
今後スイーツ産業が持続的発展できるかどうかは、ITによる情報の信頼性をどのように担保するかにもかかっていると考えられます。

「百聞は一見に如かず」という言葉があるように、いくら情報を獲得してもやはり体験・経験して初めて知るワクワク感といったものに勝るものはありません。それをスイーツに持たせることが重要なのではないでしょうか。

「地域資源」ともいえる地域独自のもつ歴史や地理、そしてそれらがつくり出す文化が物語性を強化し、それを基盤に据えることで流行に流されないビジネスが可能となるのではないでしょうか。

今回、このコラムを書かせていただく機会を得て、スイーツ業界が持続的成長できるしくみを探るのはおもしろいと再認識いたしました。
今後も研鑽を積み重ねてまいります。機会があれば、みなさまにご指導を賜りたいと存じます。その折にはどうぞよろしくお願いいたします。

1年間お付き合いくださり、ありがとうございました。

先日、学会で長崎に行ってきました。

長崎銘菓と言えば、「カステラ」です。
子供の頃に戴き物のカステラを食べるときには、「カステラ1番、電話は2番、3時のおやつは文明堂」と言いながら母親がカステラを切り分けてくれるのを待っていました。

あるときは、その言葉を聞いた祖父が「今日のは、文明堂ではなくて福砂屋!印が違うだろ。下にザラメもついていて。これは、長崎でないと手に入らないんだ」と教えられました。

時代は経て、百貨店に行けば入手はできるのですが、せっかくだから本店に行ってみようと思い立ち、わずかな時間を利用して長崎三大カステラ(福砂屋、松翁軒、文明堂)本店巡りをしてきました。

最初に行ったのは、福砂屋でした。
幼少の頃に感動したザラメのついた蝙蝠マークのカステラを「本店」で買いたかったわけです。

創業1624年という歴史があること、商標である蝙蝠は中国では慶事、幸運の印として尊重されているものであることは情報として知っていたのですが、「南蛮菓子になぜ中国?」と疑問を持っていました。

実際店舗に行ってわかったことは、近くに日本三大遊郭(諸説あるが島原、吉原、丸山)の一つである丸山遊郭や唐寺である崇福寺があり、少し歩けば唐人屋敷通りがありました。

近世の歴史に囲まれたところに福砂屋があるのです。おかげで、丸山遊女と南蛮人、砂糖の関係に思いを馳せながら街歩きを楽しめました。

文明堂は、近代的なビルを背景に路面電車の通る十字路の角に建つ黒い和風建築でした。信号待ちの間、「文明堂総本店」の看板を見ていると、「これが子供の時から食べてきた文明堂のカステラの本店なんだ!」と熱い思いが湧きました。

店内で「関西から来たのですが、ここでしか買えないカステラやその他の商品はありますか」とたずねると「文明堂総本店という他の店舗や駅の土産店で売られているカステラは同じです。ですが、関西から来られて長崎のものということであれば全てがここでしか買えないものになります」という返事でした。

つまり、長崎、福岡、広島あたりまでは文明堂総本店の商品で、関西人の私が食べ慣れているカステラは、暖簾分けの暖簾分け・・・・文明堂のカステラではあるのですが、別組織のものだそうです。

文明堂カステラと文明堂総本店のカステラは違うものだと知ったわけです。したがって、生まれて初めてのカステラを食べる機会を得ました。

松翁軒は勉強不足から長崎に行くまでその存在を知りませんでした。ですが、創業は江戸時代(1681年)で歴史ある老舗企業でした。
そもそも「長崎三大カステラ」という言葉も聞いたことがありませんでした。実際本店に行くと、青銅色の屋根に赤レンガ造りというモダンな外観でした。

しかし、運悪く私が訪れた当日から店舗改装となり本店は閉店。通りの向かいの仮店舗での営業となっていました。こちらも私にとっては、はじめてのカステラとなりました。

今回の「長崎三大カステラ」本店巡りで得たことは、「お菓子の力」です。

カステラは南蛮菓子として日本に流入してきたものの、長い時間を経て、製造方法や原材料が変化し、日本独自の菓子、和菓子となりました。(和菓子は、明治時代の開国とともに入ってきた西洋菓子に対しての言葉として生まれたものです)。

この南蛮菓子から和菓子へ変化する過程で、親方と弟子、職人と原材料業者・流通業者、お客さんと店舗、職人同士、さまざまな人と人をつなげてきました。

カステラがつなげたのは、それだけではありません。地域と地域、地域と産業、地域と文化といった時間的・空間的をもつなげてきました。

長崎のカステラ産業は、異なる人やものと接触することで、変化し、折り合いをつけながら、独自のものを強化し、価値を創造してきました。さらに地域もそのカステラをコンテンツの一つとして人を呼び寄せるほど強化しているように思えます。

長崎で地域マップや携帯で場所や乗り物を探していると、「長崎の者ですが、何かお困りですか」と声をかけてくれます。それも一人や二人ではありません。地域の人々には人を迎える「おもてなし」の精神が浸透し、地域力を高めています。

非日常だったお菓子は、日常的なものへと変化しました。技術や情報の発達は、多くの情報だけでなく商品をいつでも便利に入手できるようになりました。

しかし、その分手間暇かけて入手し、体験や経験を求めている人も増えています。

今日(こんにち)、お菓子は非日常のものへと変化しようとしているのかもしれません。そうした変化に応えられるような新たな価値を創造してくれる職人さんを私たち顧客は待ち望んでいます。

前回、神戸の洋菓子産業を事例に、地域産業が継続的に成長できてきた要因は、産業界の担い手をうまく輩出するしくみがあったことを見てきました。そして、最近、このしくみが崩壊しつつあることもお伝えしました。

神戸の洋菓子業界でいえば、職人たちがこだわってきたのは「贅沢な味」であり、その味のために原材料の入手方法を獲得し、製造の「技」を磨いてきました。

そして、対面販売により微妙な顧客のニーズを掴み、それに応えることで顧客を獲得し続けてきました。
職人の下で働くことを希望した者たちはその「味」のノウハウを習得するためでした。

しかし、技術の発展と1990年代に急速に進んだ情報化、それに伴う社会情勢は、洋菓子業界を大きく変化させました。

例えば、女性の社会進出、女性のライフスタイルの変化に伴って出現したコンビニスーツ、特に生菓子(ケーキ)は、それまでの「非日常である高級品で贅沢品」から、高品質でありながらも手軽な価格で購入できることから「日常のもの」へと変化させました。

イメージの変化だけではありません。
技術や情報の発展は、誰もが菓子の原材料や製造機械を手軽に入手でき、菓子製造業者になることを可能にしました。

また、インスタグラム(SNS)の出現により、消費者が洋菓子に求めるものは味よりも見た目にインパクトのあるもの、つまり「インスタ映え」するものになりました。

さらに、改正道路交通法の施行(2006年6月)による駐車違反の取締りの強化は、店舗前に駐車して手軽に菓子を購買していた顧客を店舗から遠ざけることになりました。

その代わりとして、力をいれた通信販売やネット販売は、非対面の顧客を満足させるため、24時間オンタイムでのサービスの必要性、つまり、広告のために見栄えのする撮影や、ネットからの情報分析をしたりする専門家の設置に迫られました。

こうした神戸の洋菓子産業を取り巻く環境の変化により、これまで神戸の洋菓子産業を長期継続的成長に導いてきた人材(職人)を育成するしくみを維持することは困難になったのです。
神戸の洋菓子業界における産業の担い手の人材育成は、先輩職人や親方によるOJTを通じた徒弟制的な訓練を通じて伝承されてきました。

しかし、消費者の選好の変化や労働基準法改正(2020年4月)により、OJTにより雇用を守り、且つ、専門性を身につけさせることは各店舗内だけでは難しくなりました。

神戸の洋菓子業界には、業界内に存在している不文律を知らない人たち、例えば、異業種の人たちや神戸以外で修業してきた人たち、趣味の菓子づくりが講じた人などが参入し、オーナーとなって店舗開業をするようになりました。

また、菓子店舗で働く人たちは独立開業を目指す人だけでなく、写真や映像撮影が得意であったり、インターネットの仕組みやホームページ作成に詳しかったり、パッケージの創作がすぐれていたりと、自分の得意なものを生かした仕事に就いています。

店舗の在り方もさまざまです。
金曜日と土曜の午前だけ(日~木曜は休日)しか営業しない店舗や、火曜日はクッキーなどの焼き菓子しか販売しないという店舗もあります。

そうすることで、働いているスタッフ全員が少なくとも月に10日は休日が確保できるようにしています。
昔は、ショーケースの大きさに合わせて20種類前後のケーキをつくっていた店舗も、現在は売れ筋7種と新規3種と絞り込んだ商品づくりにしている店舗もあります。

また、営業時間中に商品を切らさないよう次々作り続けるのではなく、基本予約販売制にし、当日つくった分が売り切れたら終わりとしている店舗もあります。
菓子の在庫や廃棄といった無駄を削減すると同時に、働いている人が無駄なものをつくる時間も削減しているのです。

さらに、雇用形態として最初から時短で雇っている店舗もあります。雇われている人は、就業後に他店で働くことや、美術館や博物館へ行って自己を高めることもできます。

もし、働いている店舗の親方から学びたければ、仕事後にかかる材料費を払えば教わることもできます。材料費を払わせることで、残業ではない、他のメンバーが一緒に残る必要がない、というメッセージを発信させているのです。

神戸の洋菓子業界では、産業の担い手が能力を最大限に発揮するために新たな人材育成のルールを構築しています。今は、雇う側・雇われる側が多様性をもっています。

その多様性が業界にどのような刺激を与え、イノベーションを生み出すのか私は目が離せません。

これからの時期、実りの秋とともにハロウィンやクリスマスなどのイベントが続き、洋菓子企業ならびにその関連企業は多忙を極められるでしょう。

私は20年近く洋菓子産業界からいろいろ学ばせてもらっていますが、研究をはじめたころは、まだハロウィンは今ほど盛り上がっていませんでした。
今回は、私の研究について話しをさせていただきます。

私の研究テーマは「地域産業が長期にわたり継続的成長ができるしくみとはどのようなものか」です。

神戸の洋菓子産業は、明治の開港を端に発した150年以上続いている阪神間(大阪から神戸の間)の地域産業です。
この神戸の洋菓子産業を事例に産業の担い手である人材を輩出するしくみ(人材育成システム)を探ってきました。

ちなみに、この「神戸」は、行政区画や駅名を指すものではなく、洋菓子が流入してきた開港都市名と重ねて雑誌やメディアなどが「洋菓子の街 神戸」として取り上げたことによります。

この研究のきっかけは、阪神淡路大震災後、間もない神戸の洋菓子産業の隆盛からでした。
多くの既存の店舗は震災で壊滅したにもかかわらず地元にとどまり再建し、新たな独立開業者は街の復興とともに出店してきました。

そのような中、インタビュー調査等の協力をしてくださったのは、第二次世界大戦後に菓子職人として修業し、神戸の街で独立開業をしていたオーナーパティシエ(菓子製造職人であり経営者)や、そこで修業していた独立開業を目指した若手の職人、あるいは震災をきっかけに独立した開業者でした。

彼らの話から明らかになったことは、神戸の洋菓子業界には企業間(店舗間)の競争制御のメカニズムが存在しており、そのメカニズムは人材育成システムに組み込まれているということでした。

洋菓子産業における顧客創造は「おいしい」菓子製造です。
「おいしい」菓子製造ができれば、企業(店舗)は多忙となり労働力が必要となります。神戸の洋菓子企業(店舗)に従業員として入ってくる多くは将来独立開業を目指していました。

そこで、神戸の洋菓子業界は①「親方と同じものをつくらない」という不文律を存在させました。

親方と同じものをつくらないルールが遵守されれば、親方は安心して高品質な菓子づくりの「技」を伝承できます。
同時に、独立開業者にはその時代や地域の顧客に合わせた独創性のある商品づくり(=商品のイノベーション)を要求することになります。

また、独立開業時において、多くは修業時に得た顧客情報が使える親方の周辺での開業を希望します。

しかし、親方の「技」をそのまま継承すれば、親方と大差ない商品づくりになってしまいます。よく似た商品での差別化は価格競争に陥り、親方も独立開業者も疲弊します。

そのため②「親方の近くで開業しない」という不文律も存在しています。

産業界は、この不文律を遵守できる人材だけが独立開業できる人材育成システムを構築しました。
例えば、独立開業希望者の入店時は、砂糖や小麦粉の袋運び、洗い物、掃除といった菓子づくりとは直接かかわりのない地味で単調な下働きがほとんどです。

そのため、この一連の雑務や作業中に多くが辞めていきます。実はこれら一連の雑務や作業は、きつい仕事に耐えてでも独立開業したいという強い意思を持つ人材の選抜のための試金石でした。
耐え残った独立開業希望者は弟子となり、親方は弟子に「技」を徹底して伝承します。

さらに、自分と同じ商品をつくらせない(=弟子に独創的な商品づくりをさせる)ために、海外研修やコンテストに参加させたり、専門学校に通わせたり、親方のネットワークで他店に修業に行かせるといった多くの修業機会を与えます。
それにより、弟子は、親方だけでなく派閥、系列を超えた複数の職人から育成を受けるのです。

しかし、不文律というルールは、遵守しなくても法的に罰されることはありません。
そうしたなか、不文律を遵守させる上で重要な役割を果たしているのが、オーナーパティシエ仲間や食材業者、顧客といった人たちです。

独立開業志望者を育成する期間中に彼らと接する機会を多く与え、顔を覚えてもらいます。そして、不文律を犯さないか監視してもらっているのです。

ここまで述べたように、業界内で競争を激化しないよう産業界の担い手を輩出するしくみにより地域産業は継続的に成長してきました。

ところが、近年このしくみが崩壊しつつあります。次回、この続きをお話したいと思います。

今年も猛暑でしたが、どのように乗り切られていましたか。

夏の風物詩といえば「かき氷」ですが、ここ数年は「かき氷」ブームです。

関西では「かき氷」といえば奈良です。その火付け役となったのは「ほうせき箱」の平井宗助氏です。

きっかけは、平井氏が家業を継いで代表取締役をしながら地域活性化のための「なら燈花会」などのイベントに関わっていた時、「おちゃのこ」で食べたかき氷でした。

「おちゃのこ」のかき氷は自家製のシロップとフワフワ食感のかき氷が特徴で、「かき氷」の世界では関東にまで名が知られていました。

平井氏は、この「かき氷」職人と奈良時代から氷の神様を祭っている「氷室神社」を地域資源としてイベントを開催しました。

つまり、「氷室神社」という舞台で「祭」(かき氷イベント)を催したのです。

「祭」は大成功で、そこに集まったかき氷ファンたちがSNSで情報発信をしてくれたおかげで、奈良のかき氷は話題になりました。

彼は、奈良=かき氷というブランドが確立するという手ごたえを得たので前職を辞任し、「おちゃのこ」の岡本氏と「ほうせき箱」を設立しました。

そして、「ほうせき箱」のSNSのアカウントを利用して他店の紹介をしたり、「奈良かき氷ガイド」という冊子を発行したり、「かき氷EXPO2018」やワークショップを開催するなど継続して新しい仕掛けをつくりました。

店舗側にとって宣伝をしてくれることや、イベントやワークショップのネットワークに入れてもらえることは大きなメリットがあります。イベントやワークショップを通じてかき氷の品質を高め、店舗運営などを学び合うことができるからです。

その証拠に、奈良には甘味処や洋菓子店だけでなく、古民家利用や沖縄の雰囲気を醸し出しているカフェでもかき氷を提供しています。

韓国の「糸ピンスー」や「雪花氷」と呼ばれる台湾かき氷、ハワイ発の「シェイブアイス」を提供している店舗もあれば、タイ料理店や美容サロン、製氷業の経営する店舗でもかき氷が提供されます。

また、さまざまな氷の削り方、地産の農作物や果物をトッピングしたり、そこから作ったシロップ、盛り方など個性のある店舗が多いほど、それを求める客も集まります。

つまり、「氷室神社」をシンボルにとして奈良が「かき氷」のテーマ―パークになっているのです。

「かき氷」はケーキやごはんとは違い、複数の店舗をはしごしながら食べ比べをすることができます。店舗間の街並みの雰囲気を楽しみ、それをSNSで拡散します。

そのため、各店舗は他店とは違う個性のあるものを提供しようと創意工夫を凝らします。この競争意欲が奈良のかき氷業界(地域産業)のブランドを高めているのです。

一方、「かき氷」は持ち帰りやお土産にすることができません。

「かき氷」は地域に人を呼ぶわけです。この地域に来た人の心をいかに掴むかが、地域産業として発展できるかに関わります。

しかし、TDLやUSJといったテーマパークに行ったときをイメージしてください。各アトラクションが楽しいのは当然でしょうが、隠れミッキーや隠れミニオンを探すワクワク感や見つけた時の喜びはひとしおではないでしょうか。

つまり、地域産業が発展するには、その産業(「かき氷」)だけでなく、地域の他業種の人たちや地域住民にも協力を得て所々に感動の要素をおく必要があります。

近年はやりのアニメファンによる聖地巡礼と同じです。アニメファンは、アニメで見た同じ建物や同じ景色に感動を覚え、アニメの中で食べていたものと同じものを食べるという経験体験に喜びを見出しているのです。そして、それをSNSで拡散することでさらなる経済効果を生み、地域振興が行われるのです。

人々の消費スタイルは、ある時期(スマートフォンが普及し、SNSの利用が広がり、他人に共感を求める人が増えた時期)から大きく変化しています。それまでは、商品自体に価値を求めて、消費者は「モノ」を購入し、所有を望んでいました。

しかし、ある時期から「モノ」をとおして体験や経験することに価値を見出す「コト」や「トキ」の消費の時代といわれるようになり、多くの人々はSNSでそれを拡散するようになりました。

人々がSNSで発信するのは、他人にも自分の経験・体験を共感してもらいたいというより、「かき氷」のように時間とともに非再現となる「コト」や「トキ」の証を自分のために残しておきたいからなのかもしれません。

さて、これまでは、浜口氏の「経営を成功させる型」の経営のパフォーマンス(成功度)を上げる「顧客との関係づくり」を高める3つの力(商品力、営業力、管理力)のうち、「商品力」(商品を通して顧客をファンにしていく力)と「営業力」(顧客にアンバサダーになってもらう力)を見てきました。

今回は最後の「管理力」です。

浜口氏の「管理力」を読み解けば、「管理力」は事業継続のために、「商品力」と「営業力」をサポートするための力です。この管理力が目指すべきところは、トップがいなくても日常業務が遂行できること。そのためには、経営資源の「カネ」や「ヒト」の管理を行います。

「カネ」の管理というのは、感覚ではなく数字の動きから企業状態を把握し、経営を行うこと。「ヒト」の管理は、各個人の得意な分野が発揮しながら、相互補完的な関係ができるチームをつくることです。

では、菓子業界の多くのスタイルであろう街の洋菓子屋さん、つまり、菓子職人であり経営者であるオーナーシェフ(オーナーパティシエ、オーナーパティシエールなどさまざまな自称や呼び方があるが)に求められるべき「管理力」とはいかなるものでしょうか。

それは「カネ」と「ヒト」、「技術」と「経営」の管理に直結する、付加価値労働生産性を高める力ではないでしょうか。

菓子、特に洋菓子は高度経済成長期ごろからファッションフードの代表格といわれてきました。次々と新商品を生み出してはブームをつくってきましたが、それらの多くは廃れていきました。

ブームの菓子作りをし続けてきた店舗側の労力と対価の割りは合っていたのでしょうか。そうした中で、働き方改革により従業員のモチベーションを高める重要性が挙げられています。

また、最近の円安影響は、原材料をはじめとする全ての資材の高騰、加えてケーキのロス率などから考えると、売上利益率はかなり低くなっていることでしょう。そのような状況では、従業員のモチベーションを上げることができません。

これを打破するには、値上げをすることですが、重要なのは値上げをする限り、値段が高くても顧客が購入してくれるものを提供しなければならないということです。

オーナーパティシエの一人が、次のように述べていました。

自分たちが作ったものを売る「プロダクトアウト」で成功できるのは、トヨタのような全ての車種を揃わせることができる大企業がなせる業で、街の菓子店舗であれば、顧客が欲しいものを作って売る「マーケットイン」である。

だから、顧客が求めているものは何かという情報を得るためには、地域に根付き、客の一部になり、コミュニティに入れてもらう必要がある。

そして、店舗に価値を見出してくれると、値段が高くても●●の店のものなら買うと言う、すなわち、付加価値労働生産性を高めるには、「出店先の地域をデザインすること」だそうです。

まず、店舗に価値を見出してもらうためには、顧客の情報を得るだけでなく、地域の中で自分たちの店舗の存在価値を認めてもらわなければなりません。同時に、地域をデザインすることで地域の価値を高める必要があります。

例えば、正しい知識や情報にもとづいて自分たちが定めた付加価値を地域の人(顧客)に伝えることは重要です。また、自分たちの店舗がその地域に存在することで、地域経済や人の流れが活性化し、地域全体が豊かになり、地域の価値が高められるような活動を行うことも不可欠です。

次に、店舗の外装や内装、店舗周辺の景色をデザインします。同じ地域の同業者とは競争しながらも、情報をシェアするためにビジネスネットワークをデザインすることで、商圏を強くします。

もちろん、店舗内の従業員の働き方もデザインします。従業員は採用段階で同じゴールを目指すことができる人材に絞ります。彼らの働く環境から考えると同じ方向を向いていることは、働きやすさにつながるからです。

また、彼らが果たすべき役割は明文化し共有することで、正確な知識や経験を積み、高品質なものづくりを可能とし、モチベーションを高めるのです。

このように、地域の価値を高めるデザインをすることで店舗側は顧客と信頼関係を構築でき、付加価値労働生産性を高めることが可能となるのです。オーナーパティシエに求める管理力とは、付加価値労働生産性を高めるしくみを管理することにあるでしょう。

今回は前回の続きで、経営のパフォーマンス(成功度)を上げる「顧客との関係づくり」を高める3つの力(商品力、営業力、管理力)のうち、「営業力」について考えていきましょう。

浜口氏は、企業にとって顧客は生命線ともいえる絶対的存在であるため、顧客と良い関係を構築するには顧客がしてほしい3つのこと(①信頼させてほしい、②適切な情報が欲しい、③背中をそっと押してほしい)を実現すべきであると述べています。

スイーツ企業(現在街のスイーツ店舗はもちろん、創業時に街のスイーツ店舗を起源にもつ数百億円の売上があるスイーツ企業)の多くは、接客によって顧客と良い関係が構築をしてきたからこそ企業が成り立っているんだ!というところでしょう。

スイーツ職人は、顧客にとって「おいしい」お菓子の条件とは何か、どのようなお菓子を「おいしい」と評価するかというのは接客を通じて情報収集します。

その情報をもとに商品化する際に、お菓子はファッション要素が高いので、職人の独創性に富んだ要素を取り込みます。加えて「おいしさ」の要素は、甘味や濃さ、食感や香りといったものだけではなく、見た目や食べたときの音など顧客の五感を刺激する必要があります。

そうした菓子づくりのためには、職人は同業者だけでなく原材料・設備機器などの菓子製造関連企業、あるいは異業種などさまざまなネットワークの人と勉強会や意見交換をしながら知識や知恵を日々アップロードしながら蓄積し続けなければなりません。

顧客にとっての「おいしい」お菓子とは、そのような職人が菓子作りに真摯である姿勢が表れているスイーツです。そして、自分を裏切らない「おいしさ」を提供し続ける職人に信用をおきます。

また、品質保持のための温度管理や形状が崩れないようにするなど不安定要素が多いケーキのような商品の場合、「おいしい」と評価してもらうためには、企業側も十分に気を遣わなければなりませんが、最後は顧客を信じてその管理を任せるしかないわけです。そうした互いの信用が信頼を築くいていくのです。

とはいえ、顧客を信じすぎるのもいかがなものかです。顧客は一つ一つのお菓子の管理について職人ほど理解している人は少ないはずです。

そのため、持ち帰りには何をどのように気を付けてほしい、いつまでに食べてほしいなど管理してほしいことは適切に伝えるべきです。しかし、このことを顧客が、面倒な店だと評価するか、お菓子にこだわりをもった店だと評価するかはわかりません。

スイーツ業界においては、効果的な商品宣伝や店舗宣伝は口コミだと言われてきました。

しかし、ここ最近ではSNSが口コミの役割を担っている傾向があります。SNSの中もインスタグラムは文字より写真や映像による投稿がメインなので、見栄えがするスイーツは多数投稿されています。

SNSを使い慣れているユーザーであれば、その写真や映像を用いながら、第三者に興味を持ってもらえるように投稿するので、宣伝効果としては抜群です。

ですが、口コミの時は、情報発信者が特定されていたため、発信する側は責任をもって行っていましたが、ご存知のように、SNSは膨大で多様な情報を獲得できるのと同様、情報は不特定多数に瞬く間に拡散されます。

時に無責任に情報が流れ、ゆがんだ情報として伝わり、その情報だけが独り歩きすることもあります。

企業(店舗)はそうした危機管理として、自分たちの情報をSNSで発信をする必要があるでしょう。

営業時間や新商品のお知らせだけでなく、職人や事業者がどのような思いで(経営理念をもって)経営活動をしているのか、スタッフが日常活動でどのようなことに取り組んでいるのか、そして自分たちの企業の存在が社会や地域にいかに貢献しているのかを「丁寧」に「継続的」に伝えることは重要です。

企業が発信した情報(自分たちの信念のもとに菓子をつくり、店舗経営をしていること)をキャッチできる顧客は、職人のお菓子への熱い思いを感じても面倒な店だと思わないはずです。そして顧客の中にある企業への信頼が顧客自らの背中を押すことになります。

情報が溢れている時代の中だからこそ、顧客は「誰から商品を買うのか」を重視しているのです。

第2回目で企業の目的は「顧客を創造すること」である話をしました。

つまり、経営において重要なことは、顧客とどのように関わっていくかです。

成功している企業は、御贔屓にしてくれるお客さん、今風に言えば「ファン」を獲得しています。

企業の売り上げの8割は、全体の2割の優良な顧客によってもたらされる「パレートの法則」です。

2割の顧客は、その企業の商品を繰り返し購入するリピーターで、他店より多少値段が高くても優先的購買します。

また、顧客自らが商品や企業を宣伝し、さらには新しい顧客を連れてきてくれます。

こうした顧客を大事にするためには、企業側はその管理を行う必要があります。

このことから、経営のパフォーマンスは、浜口[1]氏の言葉を借りれば、「商品力」「営業力」「管理力」の掛け算なのです。

この回から3回、この「商品力」「営業力」「管理力」について考えていきましょう。

今回は、「商品力」から見ていきます。

「商品力」は、一言でいえば「価値」です。

顧客の欲求を満たし、魅了し、満足を与えるもの、すなわち、顧客を創造することに繋がります。

浜口氏は、顧客は商品に存在価値、絶対価値、相対価値、認知価値の4つの価値を総合して「価値」を決めているので、企業側はこの4つの価値を伸ばすためにミッション、商品力29Cuts、ポジショニング、ブランディングを構築するように取り組むべきであると述べています。

この取り組むべきもの「商品力29Cuts」ですが、29Cutsというのは、ダイヤモンドが最も輝きを放つ58面体からの発想で、商品を輝かせるために29項目から考えています。

29Cutsを私の理解で要約すると、以下のような内容です。

商品力は「価値」であり、その価値は市場(顧客視点)から生まれる。

そのため、売れる商品をつくれる人というのはクリエイティビティ(創造力)よりも、市場と対話し、そこから改良の積み重ねができる人となる。

そこで商品開発にあたっては、顧客の問題を解決しているもの、ニーズ(機能的な価値)とウォンツ(機能以外の欲求を満たす価値)の両方をあわせたものである必要がある。

そうしたことを理解しながら、許容できるリスク範囲でやり、改良する余力を残した状態で商品開発を行うべきである。

また、商品力のためには、商品だけでなく、「三方良し」の原則や社会貢献性といった「思い」を持ち、商品に広がりや深みを出すためにポジショニングをかためる必要がある。

さらには、商品説明やネーミング、パッケージ、価格設定などで「価値」をわかりやすく伝えることが重要である。

「釈迦に説法」だと思われた方も多いでしょう。同時に、違和感を持たれた方もいらっしゃったと思います。

私もこれまで多くのスイーツ職人(オーナーパティシエ)から伺った話からすると、スイーツが売れるか売れないかは職人の「センス」次第というところです。

顧客がスイーツに求めているのは、味は当然のことながら、贅沢感や特別感、そして本格的なもの[2]です。

ですが、多くの顧客は、自分の欲求を満たしてくれる贅沢感や特別感、本格的なものは肌感覚でイメージできていても具体的に誰かに伝えることは難しいと思っています。

職人はそれをキャッチし、具現化するわけです。そのためには、「センス」が最も重要です。

センスを磨くためには、①本物に触れる機会を多くし、それを注意深く見ることで観察力を養います。

そうすると、やがてその物事の本質まで見通す力(洞察力)も備わり、鋭くなっていきます。

また、②こだわりをもつ必要があります。こだわりは自己分析の結果から生まれ、それは「オリジナリティ(独創性)」を高めることになります。

実は、本物には無駄がないのです。また、こだわりをもつということは、自分の強みがわかっているということです。

その結果、③センスを獲得すると「引き算」の法則を使うことができるのです。

全体のバランスを考え、「型」から外したり、全体をシンプルにすることで最も必要なものを際立てることができるのです。

外に出る機会も増えてきました。美術館や博物館などに足を延ばすなどして、本物に触れる機会を多くし、センスを磨きませんか。


[1] 浜口隆則(2013)『「成功の型」を知る 起業の技術』かんき出版.

[2] PRTimes『コロナで変化した購買意欲、2021年のスイーツ需要は「オンラインお取り寄せ」と「贅沢感」「特別感」が継続』(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000012047.html

ここ数年、高級食パンブームでした。「家」で気軽に「贅沢」を楽しむ、この土壌を作ったのはコンビニスイーツだと思います。

コンビニスイーツの出現、爆発的流行について、私は街の菓子店舗オーナーさんにお話を伺ったことがあります。「菓子を食べるというお客さんの奪い合いになるので戦々恐々ですよ」という意見もあれば、「コンビニのスイーツは工場で大量生産されたものだけど、自分たち職人は手作りしている。菓子は菓子でも全く違うもの。同じ土俵に話を出してくるのは失礼だ。」とお叱りを受けたこともあります。

とはいえ、同じ菓子業界に進出してきたコンビニスイーツ、それも多くの消費者が目を向けている環境下では、街の洋菓子店舗のオーナーさんも、コンビニスイーツの出現前と全く同じ経営はされていなかったはず。

このように店舗経営において、これまでとは異なる状況が生じた場合、特に危機的状況が迫っている場合、経営者はどのようにすべきでしょうか。あるいは、現状把握をした上でさらに事業を成長させるには、どのようにすべきでしょうか。

店舗経営においては、危機を乗り切るためには、自分の店舗(自店)がどのような状況にいるのかを把握し、戦略や方針を立てることが重要になります。

そこで、まずは自店を取り巻く外部環境と自店内の状態(内部環境)に分けて情報収集を行い、可視化します。

【外部環境】

多くの場合、危機は自分の店舗(自店)を取り巻く環境、例えば市場や社会情勢といった外部環境から生まれます。危機は「危険」でもあり、「機会」でもあります。

したがって、危険を乗り切り、チャンスをつかむ戦略を立てるために、外部環境にはどのような「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」があるのかを明らかにする必要があります。

この「脅威」とは、自店の収益性を脅かす要因です。自分の店舗と激しく収益性を奪い合う「競争相手」だけでなく、市場規模や将来的に成長できる可能性がある「業界」かどうかに関わります。

そこで、業界内でどのような要因が競争を激しくし、収益性を下げているのかを明らかにし、どうすれば収益性をあげる業界構造、すなわち競争をしないで済む状況をつくることができるのかを分析し、自店の優位性を探ります。

業界における収益性を探るために、ポーター先生は、競争要因や収益構造において「脅威」となる要因として「業界内の競合他社の存在」「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「買い手との交渉」「売り手との交渉」といった分析枠組み、すなわち、ファイブフォース(5Force)を提唱しました。

「業界内の競合他社の存在」「新規参入の脅威」「代替品の脅威」からは、業界内の収益性において自店の収益性はどれくらいの割合かを知ることができます。

また、「買い手の交渉力」と「売り手の交渉力」からは、業界内において自店は利益を上げることが容易かどうかを分析することができます。そして、脅威が強ければ収益性は低く、脅威が弱ければ収益性は高くなります。

以上のことからもわかりますが、ファイブフォース分析では、外部的要因における自店の強みや弱みを知ることができます。

また、収益性が低ければ事業撤退、収益性が確保できたり高いと判断した場合は、新規参入にもつながります。すなわち、分析から自分の立ち位置を知り、戦略策定に生かすことができるのです。

【内部環境】

外部的要因に対して、自店ができること・しなければならないことを明らかにするために、自店の経営資源から優位性の要因となっている「強み(Strength)」と克服すべき「弱み(Weakness)」の要素を浮き彫りにします。

外部環境の「機会」と「脅威」、内部環境の「強み」「弱み」、これら4つの要素を客観的視点に立って情報収集し、自店の現状を可視化します。これを4つの分析視点の頭文字を取ってSWOT分析と言います。

プラス要因マイナス要因
内部環境Strength
強み
Weakness
弱み
外部環境Opportunity
機会
Threat
脅威

しかし、SWOT分析だけではビジネスチャンスを獲得することはできません。これらを掛け合わすこと(クロスSWOT分析)で状況を把握し、問題解決すべき点を見出し、競争優位が確立できる戦略や方策を導きます。

・「強み」と「機会」:自分の店舗の強みを生かし機会を得るための攻めの戦略

・「強み」と「脅威」:自分の店舗の強みを生かし脅威の影響を受けないように相手との差別化による戦略

・「弱み」と「機会」:自分の店舗の弱みを克服し機会を逃さない改善活動のための戦略

・「弱み」と「脅威」からは最悪の危機を回避する戦略

強み弱み
機会強み×機会
攻めの戦略
弱み×機会
弱みの改善活動戦略
脅威強み×脅威
差別化戦略
弱み×脅威
最悪の危機を回避する戦略

コロナと共存しながらコロナ前の生活に戻りつつある今、自分の店舗の現状を分析し、もう1ランク上の事業成長を目指しませんか。

最近、うなぎやあさりといった生鮮食品の産地偽装の話が取り沙汰されています。こうした食品偽装の話が出ると、15年ほど前に菓子業界も大きく取り上げられたことを思い出します。

消費期限を過ぎた牛乳を使用した菓子製造や賞味期限改ざん、製造日偽装表示などの不祥事を犯し、消費者の信頼を損ねたことがありました。

こうした問題はなぜ後を絶たないのでしょうか。やはり、「お金を儲ける」ためでしょうか。今回の食品偽装をした人や組織も「生きていくには仕方がなかったんだ」「みんなの幸せのためには仕方がなかったんだ」と言っていました。

たしかに生きていくにはお金を儲けなければなりません。きれいごとではこの世の中、生きていけないのはもっともです。しかしながら、企業を営んでいる経営者が「それを言っちゃあお仕舞いよ」となるのです。

ご存知のように、現代経営学の父ともいわれ、『マネジメント』の著者であるピーター・ドラッカーは、企業の目的の第一の定義として「顧客を創造すること」を挙げており、「利益を得ること」とはしていません。しかし、利益を重視していないわけでもありません。

私たちの生活は市場経済とともにあります。市場経済では個人や企業といった経済主体が、それぞれ自由に自分の行動を決め、自由に選択できます。

消費者の多くが購買において重視することは「価格」と「品質」。

全く同じ商品であれば、価格の安い方を選択します。そのため、企業側は価格設定を下げる努力をし、企業間においては、厳しい価格競争が起こります。

この競争に加わることで「うまみ」が得られると判断すれば、新規企業も参入します。このことから、利益が得られるところには必ず競争相手が出現し、利益はその競争相手の中での奪い合いとなるのです。

したがって、競争の激しい市場において企業が生き残るためには、他の企業よりも多くの利益を得る必要があり、そのためには、消費者が求めているもの、他の企業には「真似できない何か」を提供する必要があるのです。そして、その「真似できない何か」こそが、ドラッカー先生の企業の目的である「顧客を創造すること」に繋がります。

「真似できない何か」をつくるために企業は、社会の資源(ヒト、モノ、金、情報など)を活用します。利益が出るということは、消費者の要求に応えることができ、資源への支払いが完了し、社会に貢献できていることを示しているのです。

また、利益は企業の存続や発展をもたらします。つまり、ドラッカー先生の「顧客」とは、消費者だけを指しているのではなく、「真似できない何か」に関わる全ての人のことを指しているのです。そして、「利益」は企業が社会においてきちんと機能しているかどうかの指標であり、顧客創造ができていることの証明となっています。

企業の目的を達成するためには、企業が社会で何を実現したいのか、どのようなことで社会に役に立ちたいのかを明確にした「ミッション(使命)」や、企業という組織の在り方を示した「ビジョン」が必要となります。

それらの策定において考えなければならないのが、『「利益」と「倫理」の両立』です。

「利益」は見てきたように、企業が正しいルールに則って活動していれば得ることができます。「倫理」は一般には企業倫理ということになります。

その理由は、企業活動(生産や流通・販売など)の最終決定者は最高意思決定者である経営者は、企業のような組織の中では経営者個人としての善良な倫理観ではなく、集団の行動規範に従わなければならないからです。

そして、倫理性は「社会を構築する集団がある事柄においては相手を信じて疑わない」という共通した認識、社会通念のもとに成り立ち、相手を信じて事を任せることになります。

つまり、社会は企業経営者が社会秩序に反しない行動をとることを期待し、企業経営者は自発的な義務のもと企業活動を遂行することで、社会の期待が「信頼」となるわけです。

社会の信頼を損なう問題が起きた時、他人事とは思わず、自分たちの企業の目的やミッション、そして、企業倫理を再確認し、徹底しておきましょう。


参考文献:

・ピーター・ドラッカー著 上田惇生訳(2008)『ドラッカー名著集13-15 マネジメント[上][中][下]』ダイヤモンド社

・高橋浩夫(2008)「企業論理とCSRの基本」『白鷗ビジネスレビュー』Vo.18, No.1

・ 井上善博(2018)「賢明な信頼と組織能力」『中央大学経済研究年報』第50号pp.271-92

長引くコロナウイルスの影響により、多くの産業が打撃を受けている中で、街の洋菓子屋さんからは「売上がアップしている」という話を耳にすることも多く、元気をもらっています。そうした話を聞くと、「やはり洋菓子は生活文化産業だ」と思うのです。

明治の開国に端を発した日本の洋菓子産業は、150年以上の歴史がありますが、そのうち半分は、一部の富裕層の人たちのものだった時代。一般の人たちも楽しむことができるようになったのは、戦後の高度経済成長期以降の技術や情報の発展に伴ってです。特にこの30年の劇的な変化を少し振り返り、整理しておきたいと思います。

ポイントは3つ。

ポイント1は、コンビニスイーツの出現です。

街のケーキ屋さんの中には、パイ(お菓子というものを求めるお客さん)の取り合いとなるという人もいれば、洋菓子店のお菓子とコンビニスイーツとは全く異なるので気にしないという人もいました。

コンビニスイーツの出現は2009年、バブル景気もはじけ、デフレからの影響で、消費者は高級路線のセカンドラインを求めるようになっていた時代でした。全国に販路を持つコンビニエンスストアは、消費者に応えるかのように、洋菓子店に引けを取らない高品質、その割には低価格設定である洋菓子を提供したのです。

すでに洋菓子店により形成されていたファッション的要素もあり、高級感もある洋菓子は消費者にとってはプチ贅沢を楽しむ格好の商品となりました。反対に、コンビニスイーツはジュースや弁当のついでに甘いものを買う「ついで買い」ができる商品、洋菓子店ではケーキ1個だけでは買いにくいが、コンビニなら気にせず買うことができるという「手軽な」商品となっていったのです。

ポイント2は、お菓子の種類です。

高度経済成長期から街の洋菓子屋さんのショーケースには、シュークリーム、プリン、モンブラン、ロールケーキ、チョコレートケーキ、苺のショートケーキ、チーズケーキが並んでいました。今でも街の洋菓子屋さんの定番菓子です。

ところが、1990年代、街の洋菓子店舗には、バブル時代の寵児といわれているイタリア菓子のティラミス、クレーム・ブリュレをはじめ、タピオカ、ナタ・デ・ココ、パンナ・コッタ、カヌレ、ベルギーワッフル、クイニーアマン、エッグタルト、マカロン、生キャラメルなどが毎年次々と流行をうちだしていきました。

さまざまな国や地域性のある、五感に訴えるサプライズ感満載のお菓子でした。こうしたお菓子の拡散は食べた人が口コミで伝えていったのです。

つまりポイント3は情報発信です。

口コミは、店舗側は広告にコストをかけずに情報が拡散できるメリットがあります。一方、消費者側はお菓子を通じて共感を得たり、評価をしてもらえるというメリットがあります。

お菓子により発見や感動といったサプライズのツボが押されたら、誰かに伝えたい、共感してもらいたいという心理が働きます。同じ感性を持った人がその情報を得ると、自分より先に情報をキャッチしていた人のセンスの良さを評価するでしょう。そして、また自分も口コミを行うのです。そうした視点から見ると、口コミは店舗側と消費者側双方の何か信頼関係のようなものから生まれてきた機能だとわかります。

さて、ここ10年足らずの洋菓子業界はどうでしょうか。一層発展した情報や技術、それに伴う消費者の意識や動向にどのように対応しているでしょうか。

コンビニスイーツがお手本にしていた街の洋菓子店を、今は街の洋菓子店がコンビニスイーツをお手本にしていませんか。消費者を流行という波にしっかりのせていたサプライズ感満載の新種のお菓子は、今では既存のお菓子の第2次●●、第3次●●になっても仕方がないとあきらめてはいませんか。承認欲求の高いSNSに依存した消費者に店舗側は踊らされたりはしていないでしょうか。

洋菓子産業は生活文化産業としてこれまで幾度となく業界を取り巻く環境の変化にさらされてきています。そのたびにしなやかに対応し、一層の力をつけてきました。業界の中にそうした「術(すべ)」や「しくみ」が根付いているのかもしれません。一緒にそれを探っていきましょう!どうぞよろしくお願いいたします。