乳製品の産地として有名な北海道の中でも、酪農をはじめとする農業が盛んな十勝地方。
カロリーベースで試算すると、十勝の食料自給率はなんと約1,100%という驚異的な数字を誇ります。

日本の食料基地とも呼ばれる十勝の中で、特にワイン作りに力を入れているのが池田町です。

国内初の自治体ワイン「十勝ワイン」の魅力を体感できる観光名所・いけだワイン城では、池田町の特産品やスイーツも多数取り扱っており、「有限会社ハッピネスデーリィ」のジェラートも、その一つです。

自家牧場産の生乳を贅沢に使ったジェラートは全国的にも評価が高く、ワイン城でのお土産として購入される他、オンライン通販やふるさと納税でのお取り寄せも殺到するそう。

『旅するイストリアVol.6』では、「有限会社ハッピネスデーリィ」を立ち上げた経営者であり、嶋木牧場の3代目牧場主でもある嶋木正一(しまきしょういち)さんのお話をお届けします。

酪農家からジェラート作りに至るまでのストーリーや地元への想い、そしてこれからの挑戦について詳しく伺いました。

125年にわたって経営を続けてきた「嶋木牧場」の強みを活かした商品展開

ハッピネスデーリィの原点は、池田町で125年続いてきた嶋木牧場です。

初代から代を数えること3代、酪農家として歩んできた道のりについて語って頂きました。

鳥取県池田藩より初代の嶋木悦蔵が現在の池田町清見に開拓入植を果たしたのは1897年のことでした。そこから、1967年に20頭の牛舎を建築し、酪農家としての嶋木牧場の歴史が始まりました。

その後、1990年4月に3代目牧場主である私が「有限会社ハッピネスデーリィ」を創業。
イタリアからジェラートマシンを輸入して、牧場で搾乳した生乳を使ったアイスクリーム作りを始めました。

現在の嶋木牧場では、北海道庁の第1回貸し付け牛(マーセーズ) 号を基礎に、ホルスタイン種200頭を飼育し、自家生産した生乳の加工や自家販売を行っています。

当社の商品は、いずれもお乳がたくさん出る健康的な牛たちあっての賜物ですね。

アメリカで学んだ牧場経営と酪農家ならではのアイスクリーム作りの始まり

嶋木さんがハッピネスデーリィを興すきっかけになったのは、アメリカでのファームステイの経験だったそう。

アメリカで牧場経営を学ぶ中で、どうしてアイスクリーム作りにチャレンジすることになったのか。当時の思い出を振り返りながら、語っていただきました。

私は20歳で経営を引き継ぎましたが、30代の3年間赤字が続きました。牧場経営を回復させるための方法を模索していたところ、たまたま雑誌でアメリカの牧場を見つけたんです。

私は高校卒業後、大学には行ってなかったので、いい機会だと思いアメリカでの短期実習を行うことにしました。30〜35歳の時に英会話を習っていたので、実践してみたいという思いもありましたね。

アメリカに渡り、ワシントン州・セントラリアのレプレカン牧場で研修を受けた際、たまたまカナダとの国境にあるエダリンデーリィで酪農家が作ったアイスクリームに出会いました。
その美味しさに衝撃を受けた私は、帰国後に「自分でもやってみよう!」と。

そうして、牧場経営とアイスクリーム販売を組み合わせた運営を目指して、「有限会社ハッピネスデーリィ」を立ち上げたのです。

グランプリ受賞など、全国的に認められた実績多数の「生ソフトクリーム」

アメリカでの牧場研修から40年が経ち、今や地元のみならず全国のファンから愛されるお店となったハッピネスデーリィ。

搾りたての自家生乳の味を生かした商品は、全国のコンテストや大会で数々の賞を受賞し、そのおいしさが広く知られるようになりました。

看板商品の「生ソフトクリーム」の誕生秘話とこれまでの受賞歴を教えて頂きました。

「生ソフトクリーム」は日本ジェラート協会の中で日本人唯一のマエストロである根岸 清(ねぎし きよし)氏考案のレシピを使った当社の看板スイーツです。

美味しさの秘密は、生乳の多さと生クリームのなめらかさ。ソフトクリームの75%以上に生乳、生クリームをたっぷりと使い、口いっぱいにミルクの味が広がります。

もともと北海道物産展で一番人気だった商品をカップアイスとして販売したもので、こう聞くと簡単に聞こえるかもしれませんが、なかなか大変なことも多かったです。
商品化に対して当初は周囲の評判もイマイチで、お届け後にアイスを入れている容器が割れてしまうといったような失敗も。

10年ほど前にパッケージを大幅にリニューアルし、その効果もあってか女性を中心に徐々に注目いただけるようになりました。10年の歳月をかけてようやく完成した商品です。苦労の甲斐あって、今ではこうして全国の皆さまからご愛顧頂ける商品になったことをうれしく思っています。

「生ソフトクリーム」はニッポンふるさとアイス選手権2014でグランプリを、FOODEX JAPAN アイスクリームグランプリ 2016では最高金賞を頂いた実績があります。

他には、ハッピネスデーリィの店頭で販売している「牧場のコーヒー」という商品が、FOODEX JAPAN 2013 国際飲料展で金賞を受賞しました。ノンホモジナイズ製法の自家生乳にビートオリゴ糖やコーヒーを加えた自然な味わいをお楽しみ頂ける一品です。

また、ワイン城でも販売している「森のカムイ」というチーズは、2012年にALL JAPAN ナチュラルチーズコンテストで金賞を受賞し、2015年には同コンテストで農畜産業振興機構理事長賞を頂きました。

加えて、ジャパンチーズアワード 2016でグランプリを獲得。2012年より計4回、JAL国際線ファーストクラスの機内食にも採用されている人気のチーズです。

チーズでいえば、「ラクレット」もALL JAPAN ナチュラルチーズコンテストで2006年、2010年と優秀賞を獲得しています。

十勝産の食材と自家牧場のチーズを組み合わせたピザなど地産地消への熱意あふれる挑戦

ハッピネスデーリィの「生ソフトクリーム」は、北海道池田町のふるさと納税品に登録されており、5年間で10万セットの受注を頂きました。

その他にも、ふるさと納税品としてハッピネスデーリィのピザも非常に人気が高く、一時期は生産が追いつかず、出荷停止になったことも。

十勝産の食材を贅沢に使い、地産地消を意識した商品展開について、嶋木さんにそのこだわりを詳しく語って頂きました。

ハッピネスデーリィでは「生ソフトクリーム」などのジェラート以外にも、乳飲料やプリン、チーズ、カレー、ピクルス、ピザと色々な商品を扱っています。嶋木牧場の生乳やチーズだけではなく、地元十勝の食材を多数取り入れ、地産地消を意識しています。

ジェラート以外のイチオシを挙げるなら、ふるさと納税の返礼品にも登録しているピザですね。
「カマンベールとインカのめざめピザ」「ラクレットとインカのめざめピザ」「赤いルバーブと緑の枝豆ピザ」の3種いずれもおすすめです。

ルバーブは池田町産、ハスカップは本別町産、かぼちゃは浦幌町産、卵は音更町産、インカのめざめは幕別町産、枝豆は中札内村産といった感じで、地元食材の魅力をたっぷり詰め込んでいますので、ぜひ味わって頂ければと思います。

ジェラートワールドツアー日本大会エントリーに向けて、さらなる挑戦へ

創業時から「お客様へ食を通じて感動を与えたい」という思いでお店を経営されてきた嶋木さん。お客様だけではなく、一緒に働く社員に夢を与え、そして卸売ディーラーへ商品を通して感動を届けたいという想いは今も昔も変わらないと言います。

そんな嶋木さんが目指す未来のビジョンとは。

アメリカでのファームステイから40年、ハッピネスデーリィでは様々な挑戦を続けてきました。よりよい商品作りはもちろん、一緒に働いている従業員の方々に対してもよりよい環境を提供できるように努めてきました。
実際、当社では31年間有給休暇の完全消化と3回の産休取得の実績があります。

今目指している挑戦は、2023年にある「ジェラートワールドツアー日本大会」へのエントリーですね。私にとって最後の挑戦になるのではないかと思います。

とはいえ、ハッピネスデーリィの根幹はこれからも変わりません。
“嶋木牧場で健やかに育つ牛たちの美味しい生乳を多くの方に楽しんで頂きたい” その願いをこめて、素材の味と香りを最大限に引き出す製法を大切に、これからも皆さまに様々な商品をご提供してまいります。

店頭でのみ扱っているジェラートなどもございますので、北海道、十勝を訪れる機会がございましたら、ぜひ私どものお店にお立ち寄りください。皆さまのご来店を心よりお待ちしております。

あとがき

酪農王国、十勝の自然の恵みを贅沢に使い、「生ソフトクリーム」をはじめとする様々な商品を開発し続けてきたハッピネスデーリィ。その背景には、125年続いてきた牧場や地元十勝に対する嶋木さんの愛情がありました。

お取り寄せで頂くだけではなく、ぜひ牧場の風を感じながら自家製ジェラートを味わってみたいものですね。

北海道・白老(しらおい)町にある赤い屋根がかわいい菓子工房「​まいこのマドレーヌ」。

店名にもなっているマドレーヌをはじめ、アップルパイやエッグタルトなどの人気商品がたくさん並ぶ店内は、木を基調としたデザインのほっこりする空間です。

「旅するイストリア vol.1」は、そんな心温まる工房を運営する「株式会社しらおい菓子工房まいこ」の代表取締役・佐藤朋子(さとうともこ)さんのお話をお届けします。

店名の由来やお菓子作りへ込める想い、社員食堂のことなど、全てのストーリーに佐藤さんの社長として、そして、母としての愛情がたっぷりと詰まっています。

「娘と一緒に働けたら…」母の愛からはじまった店

印象的でどこか優しさを感じる「まいこのマドレーヌ」という店名。そこには佐藤さんの母としての願いが込められていました。

「まいこのマドレーヌ」は1985年にスタートした小さな菓子工房で、社名や商品名の「まいこ」は、自閉症の長女の名前です。将来、まいちゃんが施設ではなく自宅で家族と一緒に暮らしながら、できるなら仕事もさせてあげたい、そんな想いで開いたお店です。

菓子工房にしたのは、まいちゃんが幼いころから食べることにすごく興味を示したのと、私もお菓子作りが好きでよく作っていたから。これならまいちゃんも楽しんで働いてくれるんじゃないかと思ったんです。

店名の「マドレーヌ」は私たち親子がはじめて一緒に作った、当工房の原点のお菓子です。そんな思い出のお菓子とまいちゃんの名前「まいこ」を合わせて、「まいこのマドレーヌ」と名付けました。

創業時から、『お店は小さいですが、愛情はたっぷり』そんな商品づくり・お店づくりを心がけ、気が付けば35年以上になりました。まいちゃんは工房で、長男が2号店の「MAIKO’S BAKE」を、三男が物産展などのことを頑張ってくれていて、足を運んでくださるみなさまと優しい従業員たちに囲まれ、毎日賑やかにやっています。

私たちは母親が子供の口に入るものを気に掛けるように、誰もが安心して美味しく食べられるよう、できる限り無添加と北海道産素材にこだわったお菓子作りを心掛けています。

大人気!まいこさんが作る特別仕様のアップルパイ

北海道産りんごをたっぷりのバターでソテーして作る「アップルパイ」。「まいこのマドレーヌ」の人気商品のひとつですが、オリジナル商品以上に人気なのが、まいこさんが一日に二個だけ作る夢のようなアップルパイなんだとか。

まいちゃんが作るアップルパイは、とにかくりんごがぎっしり詰まっています。パイ生地とりんごの間に隙間ができないほどたくさん詰めているので、きっと通常の倍くらいはあるんじゃないでしょうか。

毎日、自分用とお客さま用に二個焼いているんですが、これが本当に人気で。まいちゃんが楽しんで作っているものなので、値段はオリジナル商品より少し安い1500円。通常よりりんごがとっても多いので本当は逆なんですが…(笑)

最近は毎日のように注文が入っていて、先に予約をいただくこともあるんです。まいちゃんが作ったお菓子を喜んでくださる方がいるということがすごく嬉しいですね。

まいちゃんは他にも、スイートポテトの計量やエッグタルトのシートの敷き詰めなんかがすごく上手で、工場から助っ人を頼まれることも多いんです。

一緒に働く中で、この子がなにに興味があって、どんなことが楽しくて上手なのかがわかってきました。この工房でこうして一緒に働きながら成長を見守ることができて、本当に良かったなと思います。

買えたらラッキー!一本しかない手作り無添加食パン

実は「まいこのマドレーヌ」で一本だけ販売されているという佐藤さん手作りの角型食パン(北海道では角食(かくしょく)と呼ぶそう)。この食パンにも母の愛情がぎゅっと込められていました。

北海道産の小麦「ヌーベルバーグ」と、北海道産バターを贅沢に使って焼いた角食で、ふんわりというよりはハードな食感をしていて、これがなかなか美味しいんですよ。

元はまいちゃんが朝に食べられるようにと焼き始めました。以前は市販のものを買っていましたが、市販の食品はどれだけ気を付けても添加物が入っていることが多くて。工房のお菓子作りと同じように、家族の毎日の食事にも美味しくて安心なものを用意してあげたいと思い、自分で作ってみるようになりました。

ある時、お客様にお出ししたら「美味しいから販売して」と言っていただいて。ホームベーカリーなのでそれほど多くは作れないため、工房で一本だけ販売しています。添加物が一切入っていない100%純正の角食です。よろしければぜひ食べてみてください。

従業員の健康をねがう「まかない食堂」

家族もお客さまも、誰に対しても惜しみなく愛を注ぐ佐藤さん。そんな佐藤さんが昨年工房内でスタートさせたのが「まかない食堂」です。まかないという名の通り、従業員の方が食べられる社員食堂のようですが、なんと一般の方も食べられるのだとか。

昨年に工場を新設したのですが、それに伴い、もともと店舗で製造を行なっていたスペースを改装し「まかない食堂」を始めました。

従業員のみんなにバランスの取れた食事をしてほしい、野菜を食べてほしいという想いで毎朝手作りしています。北海道産「ゆめぴりか」とおかず、副菜、岡山県・備前の「紅糀みそ」を使ったお味噌汁が付いた定食を提供しています。

従業員は10名ですが、毎日20食を目指して作っていて、10食ほどだけですが来ていただいたみなさまも食べていただけます。

この食堂を作ってみて感じたのは、こうして毎日従業員みんなと顔を見て話ができるというのは、とても良いことですね。

うちは作業場所が三ヶ所あるので、以前は別の場所にいる人とは話せない日もあったんですが、今はみんながお昼になったらここに食べに来てくれて、なんでも話してくれるようになりました。会話が増えて、さらに親しくなれた気がします。

聞くところによると、毎日お昼を楽しみにしてくれている人も多いみたいで。みんな忙しい中一生懸命に働いてくれているので、息抜きできる場所を作ってあげられて良かったなと思います。毎日「残さず食べなさい」「野菜をしっかり食べなさい」なんてうるさく言う人がここにいますけどね(笑)

本店以上の品揃え!「MAIKO’S BAKE」

「まいこのマドレーヌ」から車で10分ほど北へ進んだJR白老駅すぐのところにある「MAIKO’S BAKE」。佐藤さんの長男・佐藤慶自さんが店長を務める2号店です。

「MAIKO’S BAKE」のことは長男が頑張ってくれているので、私はあまり口出しせず任せています。「まいこのマドレーヌ」より豊富な品揃えで、人気のエッグタルトをはじめ、アップルパイ、キッシュ、季節のフルーツタルト、クッキーシュー、スコップケーキ、純生オムレットなどを販売しています。

今ではすっかり息子たちの方がお菓子作りに詳しくなり、素材選びも厳しくこだわりを持ってやっています。「MAIKO’S BAKE」も「まいこのマドレーヌ」と同じように、北海道産素材を使用したお菓子をお作りしています。

また、全国のソフトクリームランキングで2位となった「岩瀬牧場」さんのソフトクリームもお召し上がりいただけますので、白老にいらっしゃった際には、ぜひ寄ってみてください。

あとがき

取材にお応えいただきながら、「毎日色々なドラマが目の前で繰り広げられるから目を離せないんです」とまいこさんや従業員の方々を優しい目でずっと見守っていらっしゃった佐藤さん。その姿は強くたくましく、優しくて懐の深いまさに“肝っ玉母ちゃん”そのものでした。

人もお菓子も優しくて心が満たされる素敵な菓子工房「まいこのマドレーヌ」の、美味しくて安心して食べられるスイーツをみなさまもぜひ味わってみてください。