有明海の海を一望できる長崎県・雲仙市に本店を構える「ネオクラシッククローバー」は、第4回ニッポン全国おやつランキングで1位に輝いた「長崎石畳ショコラ」の他、多彩なケーキを取り扱う人気店です。
店内に足を踏み入れると、エントランス正面に置かれたきらめくショーケースが訪れる人を出迎えてくれます。まるでケーキに囲まれた舞台に招かれたかのような非日常感を味わえる演出です。
「旅するイストリア vol.2」では、「ネオクラシッククローバー」を運営する株式会社清水雲仙の代表取締役であり、菓子職人でもある一条富春(いちじょうとみはる)さんのお話をお届けします。
東京で生まれ、結婚式場「椿山荘」で料理やパン・ケーキの修行を積んだ一条さんがどうして長崎で店を営むことになったのか、”長崎らしい”お菓子作りにこだわる一条さんの想いと合わせて伺いました。
子どもの頃の憧れの味を叶えるために料理の道へ
ネオクラシッククローバーの色とりどりのケーキを毎日丹精込めて作る一条さんですが、もともとは料理人として「椿山荘」のフランス料理部門で修行を積んでいたといいます。どうして、一条さんはお菓子作りの道を歩まれたのでしょうか。
両親が仕事で不在がちということもあって、小学校頃からよく料理をしていました。「ハンバーグステーキ」などの洋風メニューには特に憧れが強く、高校卒業後、もっと料理のことを深く学びたいと思い武蔵野調理師専門学校への進学を決めました。
学校を卒業した後は、結婚式場「椿山荘」のフランス料理部門で働いていました。その後「銀座椿山荘」へと移ったわけですが、ちょうど3年目にケーキ・パンを担当するベーカー課への異動が決まったのです。専門部署ですから、途中から入ってくる人というのはほとんどいなくて…最初はイースト菌の臭いにすら驚いていましたね(笑)
ベーカー課では10年ほど経験を積みました。職場で現在の妻と出会い、妻の実家のケーキ店「六本木クローバー」を継ぐことになるとは、入社当初は想像も出来なかったですね。大変なことはたくさんありましたが、そのときに培った製菓の技術や美的センスが今のお菓子作りの土台になっているので、ありがたいなと思っています。
洋菓子発祥の地”長崎”だからこその味を創りたい
1982年に創業した洋菓子店「六本木クローバー」ですが、一条さんが継いだ後は「ネオクラシッククローバー」と店名を改め、商品の品揃えも一新しています。リニューアルの裏側には、”長崎らしさ”にこだわる一条さんの想いがありました。
椿山荘を退職した後、妻と一緒に長崎へと移り住みました。当時は、東京の「六本木クローバー」というお店とフランチャイズ契約を結んでいたのですが、せっかくなら長崎らしさをとことん活かした商品を創りたいと考えました。義父も賛同してくれたので、店名も含めて一新したんです。
これまでのクローバーが積み重ねてきた歴史、そして江戸時代に伝わった西洋菓子に、創意工夫を凝らしてきた長崎の歴史を大切にしながら、長崎らしい新たな味を創り出していきたい。そんな思いを込めて「ネオクラシッククローバー」という店名をつけました。
長崎の街に僕自身が慣れるまでに3年くらいかかりました。地域に染まる覚悟がないと創り出せない”長崎らしさ”あふれる味を、私は皆様にご提供したかったんです。試行錯誤を重ねながら、そうして出来上がったケーキの一つが看板商品の「長崎石畳ショコラ」ですね。
隠れオランダ坂の石畳から着想を得た「長崎石畳ショコラ」
「ネオクラシッククローバー」の看板商品であり、全国の雑誌やメディアからの取材も相次ぐ長崎銘菓「長崎石畳ショコラ」は、1年間の研究開発を経て一条さんが完成させた逸品です。「長崎石畳ショコラ」が出来上がるまでには、どんな経緯があったのでしょうか。
「ネオクラシッククローバー」は本店の他にも、諫早バイパス店と長崎籠町店の計3店舗があります。その3店舗目・長崎籠町店の目の前に「隠れオランダ坂」と呼ばれる場所があります。観光名所として有名な「オランダ坂」とは違い、昔から生活道路として使われていた石畳の道なんです。
踏めば踏むほど黒光りする石畳の美しさに、私は長崎の地で積み重ねられてきた歴史を感じずにはいられませんでした。その重さと深さをお菓子で表現すべく、チョコレートを軸にさまざまな素材を組み合わせ、1年間かけて“ネオクラシックなレシピ”が出来上がりました。
最も意識したのは、食べた人の五感を震わせること。8層に分かれたケーキの中には、ベルギー産のミルクチョコと純正生クリーム、カカオスポンジ、バニラスポンジの4層が二重に重なっています。最後に生チョコレートのコーティングで仕上げ、一見硬そうな見た目を裏切る柔らかな食感に仕上げました。
見た目は黒一色で地味に見えますが、その分フォークをいれたときの驚きはひとしおです。ぜひ研究しつくされた素材同士のハーモニーをご堪能いただければと思います。
カカオ・トレース認証製品を使用し、SDGsにも積極的に取り組む
お菓子作りは、人に幸せを伝えていく仕事だと一条さんは言います。だからこそお客様はもちろんのこと、ケーキに使う食材の作り手にも幸せを還元していきたい。そんな思いから「ネオクラシッククローバー」が取り組んでいるのが、カカオ・トレース認証商品の利用です。
「長崎石畳ショコラ」をはじめ、当店ではチョコレートを使ったケーキを多数ご用意しています。私は菓子職人として、お客様を幸せにするだけではなく、良質でおいしいチョコレートを作ってくださる農家の方々にも何かお返しが出来たらと思ったんです。
カカオの生産地では、貧困問題が非常に大きな問題になっています。カカオの生産では食べていけないからと、農業を継がずに街に出稼ぎに行ったり、より利益になる作物作りへと切り替えたりする農家が増えています。
そういったカカオ農家にチョコレートの代金の一部を還元し、より質の高い農業ができるように支援していこうという試みが「カカオ・トレース」です。チョコレート類を提供しているピュラトスジャパンが2014年から展開している施策なのですが、当店でもカカオ・トレース認証のチョコレートのみを使うことで、少しでも生産者のお力になれたらと思っております。
”長崎らしさ”を活かした商品開発に注力し続ける
「長崎石畳ショコラ」が全国的な大ヒット商品となった後も、一条さんはネオクラシッククローバーの商品開発に余念がありません。長崎の郷土菓子「桃カステラ」のように古くから受け継がれる味を大切にしつつ、新たなおいしさ作りへのチャレンジを続けています。
お菓子のヒントは日常どこにでも転がっています。五感をフルに使い、私にとって第二の故郷ともいうべき長崎のよさが伝わるお菓子を今後さらに生み出していきたいですね。
当店のお菓子は、長崎県内の3店舗はもちろんのこと、オンラインからもご注文いただけます。ご自宅用はもちろん、大切な方へのギフトなどにもぜひお使い頂ければと思います。
皆様の笑顔を思い浮かべながら、今日も誠心誠意、お菓子作りと向き合って参ります。
あとがき
長崎の街を第二の故郷として大切に思い、その魅力をお菓子で表現し続ける一条さん。「ネオクラシッククローバー」の珠玉のケーキの数々をティータイムに添えて、その感性が光る長崎ならではの味をぜひご賞味あれ。
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