スイーツは、お茶の時間やランチのデザートにいただくことが一般的なイメージでしょうが、最近では、お酒と一緒に楽しむ商品も増えてきました。
東京都・立川市にある「ガーデン&クラフツ」が提供する「コルテッツァチーズケーキ」もそうしたスイーツの一つです。とろりとした濃厚さと控えめな甘さは、赤ワインとの相性抜群です。
現在、「ガーデン&クラフツ」の系列店である「オーガニックガーデン茅ヶ崎店」で店長を務める渡辺千尋(わたなべちひろ)さんは、コルテッツァチーズケーキの製法を知った時、とても驚いたと言います。
「ずっとパティシエをしてきた私には、到底思いつかない製法で作られていたんです」
人を魅了してやまないコルテッツァチーズケーキは今や「ガーデン&クラフツ」の看板商品。
『旅するイストリアvol.9』では、「ガーデン&クラフツ」のことやコルテッツァチーズケーキが一体どのように生まれたのか、などを渡辺さんに深く語っていただきました。
“オーガニック”へのこだわり、大元にあるのは建築の概念
建設メーカーがプロデュース! 自然と一体化したような3つのカフェ
「ガーデン&クラフツ」は、立川市の地域住民に愛される、隠れ家風の一軒家カフェ。
鮮やかなグリーンと薔薇の花に彩られるこのお店では、手作りの生パスタやスイーツをゆったりと楽しめます。
系列店の「オーガニックガーデン茅ヶ崎」はスイーツ等の軽食中心、「オーガニックガーデンノース」もサラダやサンドイッチのランチを軸とするカフェです。
いずれも、お店の外観・店内インテリアがとてもおしゃれ。
それもそのはず、これらの心地よい空間を提供しているのは、ガーデン設計等を手掛ける建設メーカーなのです。
「ガーデン&クラフツ」とその系列店を運営する「ヒューマンヤード株式会社」は、“趣をデザインする”をコンセプトとし、自然と調和したエクステリアや店舗建築などを得意としています。
そんな同社の飲食事業部として生まれたのが、3つのカフェということです。
“オーガニック”という屋号の秘密。実は、食発信ではなかった!?
ところで気になるのが、系列店が屋号に掲げている「オーガニック」という言葉。
オーガニックのカフェは様々なところで展開されていますが、こちらのお店での「オーガニック」の捉え方は、少し違っています。
渡辺さん:
「どうしても食材のオーガニックと捉えられがちなんですが、発端は建築のことなんですよ。」
では、なぜ、オーガニックという名がついたのか。
それは、母体である「ヒューマンヤード株式会社」が、近代建築の巨匠の一人、フランク・ロイド・ライトの唱えた「自然の姿に学び、建物と環境が溶け合う」デザインを送り出しているオーガニックハウスというプロジェクトの正規メンバーであるからなのだそう。
渡辺さん:
「ただ、屋号にオーガニックを掲げているので、飲食事業部でもできるかぎり、食材は厳選しています。お野菜も茅ヶ崎の有機農家から取り寄せたものを取り入れるなど、こだわりを貫いています。」
厳選した素材を使ったランチメニュー、スイーツメニューは、どの店舗でも高い評判を得ています。
そしてどの店舗でも、主力商品として人気があるのが、『コルテッツァチーズケーキ』です。カフェメニューとしても定番ですが、テイクアウトや通販へと販路も広がっています。
このチーズケーキの製法は、パティシエである渡辺さんの概念を覆すものだったことは冒頭に述べた通りですが、なぜそのような製法で生まれたのかというと、「本当に、たまたま、できたものなんですよね」とのこと。
それでは、コルテッツァチーズケーキの誕生秘話について、さらに詳しく聞いてみましょう。
シェフの勘で完成させたコルテッツァチーズケーキのレシピ
パティシエ作ではなかった…。コルテッツァチーズケーキ誕生秘話
表面は焦げたように真っ黒で、ナイフを入れると中からは濃厚なチーズがとろり。なんとも深い味わいのコルテッツァチーズケーキ。甘すぎない大人向けのスイーツです。
この商品が生まれたきっかけは、同社のオーナーと鷲尾洋大シェフが、スペインに訪れてバスクチーズケーキを知ったことからだとか。
渡辺さん:
「まだバスクチーズケーキが流行する前、オーナーとシェフが現地で食べて感動して、日本に帰って作ってみよう!と思ったそうです。ただ、鷲尾シェフはパティシエではないので、チーズケーキ製造の工程をよく知らなかったそうで、味わったときの記憶を辿って、チーズと卵と生クリームをシェフなりの配合で混ぜ合わせ、焼き上げたんですよね。それで出来上がったのが今のコルテッツァチーズケーキです。本当に偶然の産物という感じで。」
渡辺さん自身も、バスクチーズケーキの印象を聞いて、製造にチャレンジしたんだそう。
渡辺さん:
「でも何度やっても、違うと言われて。焼き上げてみても、膨らまずぺしゃんと凹んでしまうんですよね。だから、シェフの勘で焼き上げて商品化にまで至ったのは本当にすごいことだし、びっくりです。」
パティシエが作るチーズケーキと、どこが違うのでしょうか。
渡辺さん:
「パティシエである私が作るなら、材料の計量はもちろん、温度を細かく測ったり、寝かせてみたりとするんですけど、シェフの製法は本当にシンプルなものでした。それがかえってよかったんですよね。」
パティシエの役割を奪われたようにも思えますが、「そんなことは全然なくて、料理人さんってこんな感じなんだ、すごいなと、素直に思います。だって美味しいんですから(笑)」と笑う渡辺さん。
お酒、とりわけワインに合う味なのも、オーナーもシェフもワインが大好きだからだとか。
シェフの嗜好と技の極みによって、同社のオリジナルのチーズケーキ「コルテッツァチーズケーキ」は生まれたのです。
コルテッツァチーズケーキのヒットが店のさらなる発展へとつながって
オーガニックへのこだわりもあって、コルテッツァチーズケーキも、化学調味料や人工甘味料は不使用。そのほか、ショートニングやマーガリン等も使っていない、ピュアな商品です。
主たる原材料となるチーズは、ヨーロッパから取り寄せた厳選のもので、卵は新潟県の「川瀬養鶏場」の「思い出たまご」。そして、小麦粉を全く使っていないグルテンフリーの商品とのこと。
最初に「ガーデン&クラフツ」で提供を開始し、評判となったことで、チーズケーキと有機コーヒーの店として「オーガニックガーデン茅ヶ崎」が誕生。
さらに、コロナ禍による自粛で通販へと販路を広げていくにあたり、コルテッツァチーズケーキ製造のファクトリーを小平市にオープンさせたそうです。
渡辺さん:
「コルテッツァチーズケーキはグルテンフリーの商品として売り出していますが、ファクトリーで、他の商品に小麦粉を使っていると、グルテンフリーを謳ってはいけないんですね。そのため、シフォンケーキや焼き菓子も米粉で作るようになりました。将来的にはタルトなども米粉のものにして、グルテンフリーとしてお届けできるようにと考えています。」
コルテッツァチーズケーキをきっかけに、カフェのポリシーも、さらにオーガニック方面へと傾倒していったようです。
お店を発展させるため。店長兼パティシエの渡辺さんの想い
ガーデン&クラフツの仕事で、パティシエの仕事の面白さに開眼
現在は、「オーガニックガーデン茅ヶ崎」の店長として、店舗の運営やスイーツ製造に関わっている渡辺さん。
お店やスイーツへの想いは人一倍強く、シェフとの信頼の絆も伺えます。もともと、カフェ運営に興味があったのでしょうか。
渡辺さん:
「実は私、北海道出身なんです。特にケーキが作りたいって思っていたわけじゃないんですが、地元でカフェを開きたくて。それで、東京の製菓の専門学校に進み、卒業してからケーキ屋さんで働いたあと、ご縁があって、ヒューマンヤードへ入社しました。ガーデン&クラフツの店長を務めてから、オーガニックガーデン茅ヶ崎の店長になりました。」
パティシエとして、仕事の面白さを新たに発見できたのも、今の会社に入ってからだとか。
渡辺さん:
「最初に働いたお店は、トップに立つパティシエが開発したものを淡々と作っていましたが、この会社に入ってからは自分がレシピを作る立場になりました。苦労して作ったレシピでできた商品をお客様に食べていただくって、こんなに嬉しくて楽しいことなんだってこと、初めて知りましたね。でもまあ、どんな反応があるか、毎回恐怖でもあるんですけど(笑)」
生み出す喜びに充実感いっぱいの様子の渡辺さん。お店ではシェフの仕事にも刺激を受けるといいます。
渡辺さん:
「ガーデン&クラフツの鷲尾シェフの料理は、驚くようなものもあって、やっぱり美味しいですし、勉強になります。」
シェフとの二人三脚で、渡辺さんの世界もさらに広がったようです。
カフェとしてではなく、ケーキ店としても発展させていきたい
最後に、パティシエとして渡辺さんが今後取り組んでいきたいことをお伺いしました。
渡辺さん:
「やっぱりお客様が飽きないように、新しいものを常に打ち出したいです。今は、茅ヶ崎産のブルーベリーやシャインマスカット、柿などを載せたタルトを季節に合わせて出しています。オーガニックガーデン茅ヶ崎店の店長として思うのは、カフェではあるんですけど、ケーキにも力をいれていますし、ケーキ店としての認知も広めたいですね。アニバーサリーのケーキの予約も承っているので、ケーキ店としても成長させたいです。」
抱負を語るその横顔に、パティシエとしての矜持がちらりとのぞきました。
偶然が生んだ、自然な素材の味と香りで出来ている本物のチーズケーキをぜひご賞味ください。
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